君がそこに来るまで

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「なんだよ、早織の言い訳もひどいな」 「いいや、雄太の方が変だと思う」 「同じ変なら簡潔な方がいいだろ」 「逆に長い方が嬉しくならない? ちょっと短めの小説読んだみたいな気分になったりして」 「……あのな、そういうのを五十歩百歩って言うんだぞ」  先生にツッコまれた後、雄太と目を合わせてニシシと笑い合う。  ほら、好きな人と一緒にいるだけで、こんなに世界は煌びやかになる。心の花は何輪にも増えて、色とりどりに染まっていく。5分間、待った甲斐があったなあ。 「それじゃ、担任には遅刻ってことで報告するぞ」  ガラガラと先生が正門をスライドさせる。どうせ開けるんだからわざわざ閉めないでも誰も通り抜けたりしないのに、なんて考えながら、ゆっくりと開く門を見ていた。 「受験にはそんなに関係ないかもしれないけど、生活態度は人としての基本だからな、気を付けろよ」 「はい、今度は持久力を意識して走ります! あと早起きします!」  ペコリとお辞儀し、雄太はグッと地面を蹴って走りだした。 「じゃあな、早織!」 「ん、またね。今日もゆるっと頑張ろ」  そして、やっと2人きりの時間。 「えへへ、秀介(しゅうすけ)先生」 「……お前な、わざわざ定期的に遅刻するヤツがいるか」 「だって、3年で体育の先生変わっちゃったし。全然会えないから」  照れをごまかすように目を見開き、右のこめかみの辺りを掻く先生。  もうすぐ30歳、今は表情を崩さずにいるけど、怒ったときの鋭い目とか、笑ったときに目の横に小さくシワができるところとか、全部が好きで、諦める気になれない。  男友達と仲良く会話してみて、気を引いてみたくもなる。それは、悪いことじゃないよね。 「ね、ね、さっきの朝食の話、どう思います? 姉だからっていっつも我慢させられて」 「上汐(かみしお)、もう授業始まるぞ」 「まだちょっと時間あります! ダッシュすれば余裕!」 「……5分前までな」 「やった!」  真っ赤な紅葉が、祝福するようにカサカサと揺れる。体育館の横にある準備室まで、私は大好きな人と一緒におしゃべりしながら歩いた。 <了>
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