認容

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「大丈夫か? あげられるもんならあげたいよ」  哀れむような声。やめろ。僕を下に見るな。可哀想に思うな。折角取り戻しかけたプライドが。  自分は僕よりも上だって思ってるんだろ? お前は内定も恋人も手に入れてるもんな。 「軽々しく言うな! ありのまま生きてきたら内定は出ないし恋人もできない。こんな自分、もう嫌なんだ!」 「好きの反対は無関心。嫌よ嫌よも好きのうち。聞いたことあるだろ? 川田は大嫌いになるほど自分に関心を持っている。本当は自分が大好きなんだよ。違うか?」  彼は悲しそうに言った。なんでそんな顔するんだよ。 「そんなわけない!」  彼は静かに僕を見る。  その顔が、鏡の間で見たもう一人の僕と重なる。  ――早くこっちに来なよ。  彼の口が動いたような気がした。  僕は彼みたいになりたかった。でも、僕が彼になることは絶対にできない。  彼が僕になることができないのと同じように。  僕は、僕以外の何者にもなれない。 「飲みに行こう。愚痴ならいくらでも聞くぞ」  青木が僕の肩に手を回す。その手はとても温かくて、振り解く気にはなれなかった。 「なんでそんなにしてくれるの?」  僕が掠れた声で尋ねると、青木がニカっと笑った。 「だって、俺たち友達だろ?」  鼻の奥がつんとして、今喋ったら絶対に声が震える。でもこれだけは伝えなくちゃいけない。 「ごめん。そして、ありがとう」  ――チリン。鈴の音がして振り返ると、門柱の上で一匹の三毛猫が眠っていた。
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