認容

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 足が硬い地面についた感触。僕は顔から手を離し、ゆっくりと目を開ける。眩しさで何度も瞬きを繰り返す。空が明るい。  牛丼屋を出てからそんなに時間が経っていないように思われた。 「おー、川田。昨日ぶりじゃん」  声をかけられて気づく。ここは大学の正門前だ。  話しかけてきたのは青木。内定が複数あるのに就活を続ける自己中野郎。しかも彼女持ちだ。 「今日も行く?」  彼は手で(くう)を掴み、口元で手首をくいっと上向きに動かした。  飲みに誘われているのだ。――随分と余裕だな。  僕の中でなにかが切れた。声を張り上げる。 「お前はいいよな。内定をいっぱいもらってて。これから一つも受からなくても、行くところがある。僕は違う! 『無い内定』なんてふざけた言葉に毎日傷ついて、怯えて。自分には価値がないって思い知らされるよ。こんなんだから内定が出ないんだって分かってる。みんなが羨ましい。お前が持て余している内定をくれよ!」  僕の目から前触れもなく涙が溢れ出す。彼は困惑の表情を浮かべている。僕らの横を通る人たちは、好奇の視線を送ってくる。  僕は惨めだ。でも通行人からしたら、彼も僕と同じく「道を塞ぐ迷惑な人」だ。そのことが僕の自尊心を少しだけ満たす。
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