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昼でも夜でもない中途半端な時間に食事を求めるのは、自分だけだと思っていたが、近所の牛丼チェーン店は座席が六割ほど埋まっていた。
いつものように牛丼大盛りを頼むと、ぐるりと店内を見回した。
カウンターでスマートフォン片手に牛丼を頬張るスーツ姿の男性がいる。年齢は、見た感じ父と同じくらい。隣の椅子に置いてある四角く黒い鞄から、仕事中のサラリーマンではないかと推測する。
というか、自分より年上でスーツを着ている人は、みんな会社員に見える。
働いているということは、採用試験に受かったということなんだよな。
あそこで味噌汁をすすっている冴えないおっさんも、こちらでちまちまと米ばかり食っている陰気な女も、僕が欲しくて欲しくて仕方がない内定を手にしたのだ。自分で稼いだ金で飯を食っている。親の仕送りで暮らす僕とは違う。そう思うと途端に自分がみじめになってきた。
「お待たせいたしました」
僕の前にほかほかと湯気を立てる牛丼のトレーが置かれる。店員の顔を見る。多分大学生だ。コイツだって自分で金を稼いでいる。
早く出よう。
僕は箸を真ん中に突き刺して、力任せにかき混ぜた。持ち上げた丼に口を付け、箸で流し込んでいく。味など分からなかったが、腹が満たされればそれで良かった。牛丼なんて、どうせ味わって食うようなものでもない。
僕は五分で丼を空にすると、小銭をぶちまけるようにして金を払って店を出た。
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