認容

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「お前にはそう見えるのか。ここには『時間』という概念はない。時間は進むことも戻ることもない。だから、ボクは子供でも大人でもないし、子供でもあり大人でもあるのさ」 「訳の分からないことを言うなよ」 「いいじゃないか。道理が通る話ばかりじゃないってことさ」  ミコトはにんまりと笑った。そして、ミケに向かって諭すように言う。 「ここはね、自分で目的地が分かる人のための通路なんだよ。軽率に連れて来てはだめだ」 「だって、お昼寝しようと思ったら、くどくどとうるさいのよ! ミコトならなんとかできると思ったの」  ミケが頬を膨らませる。 「うるさいってなに? 僕喋ってないよね?」 「私、人間の心の声が聞こえるのよ」  胸を張ってミケが答えた。ミコトが深いため息をつく。 「連れて来てしまったものは仕方がない。ボクたちにはお前を導く義務がある。念のため確認するが、お前は自分の目的地が分かるか?」 「ここがどこかも分からないのに、そんなの分かると思う?」  鼻を鳴らしてみせると、ミコトは大声で笑った。 「これは参ったね。また一段とクセの強いやつを連れて来たものだ」  ミコトに言い返してやろうと思った時、ミケが口を開いた。 「ここは薄暮(うすぐれ)の世界。空を見て。下の黄色い部分が人間世界でいうところの昼。上の青い部分が夜。昼と夜の中間。そんな世界よ」  ミコトは微笑みながら、「ありがとう」と言ってミケの頭のてっぺん――三角の耳と耳の間だ――をくしゃくしゃと撫でた。ミケは気持ち良さそうに目を細める。 「ミケが言ってくれた通り、ここは薄暮の世界。世界と言っても、単なる『通過点』さ。『目的地』に至るまでの通路みたいなものだ。みんな目的地に向かって急いでいる。ほら、周りを見てごらんよ。立ち止まっているのはボクたちだけだ」  ここに来た時に立っていた場所に視線を向ける。相変わらず人型のもやが、せわしなく行き来している。 「お前も早く目的地が見つかるといいね」  ミコトの目はガラス玉のように澄んでいて、僕の心の奥底まで見透かされてしまいそうな気がした。
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