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「目的地」
おうむ返しする僕をミケが笑う。
「行きたい場所のことよ。それくらい分かるでしょ?」
「分からない……」
ミケの笑い声が一層大きくなった。
「自分のことなのに分からないの? 面白い冗談ね」
僕は強めに言い返す。
「冗談じゃないよ」
ミケが目を真ん丸にして、両手で口をおさえた。
「まあ、そうだったのね。ごめんなさい。自分で自分のことが分からない人がいるなんて思わなくて」
「ミケ、それくらいにしておきなさい」
ミコトが鋭い声を出した。ミケの体が震える。
「人間はボクたちと違う生き物なんだ。そこをミケには分かってほしい」
柔らかい口調に戻ってミコトが言うと、ミケは涙目で頷いた。
ミコトは僕に向き直って言う。
「すまない。この子は新入りでね。この世界や人間のことを、まだよく分かっていないんだ。悪気があってやったわけではないから、どうか許してやってほしい」
「いいよ。僕を元の世界に戻してくれるなら許してやる」
ミコトが唸りながら腕を組む。
「ボクが導いてやるのは簡単だが、このまま帰れば、いずれまた目的地を見失うだろうよ」
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