認容

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「あ、そうだわ!」  ミケが両手を叩いた。 「欲しいものが分かれば、目的地も分かるはずよ。そうよね、ミコト」  誇らしげなミケに、ミコトが微笑みかけた。 「よく覚えていたね。偉いぞ」  ミケはミコトに頭を差し出した。ミコトがそれを撫でてやると、尻尾が嬉しそうに揺れる。  しばらくして満足したのか、ミケが顔を上げた。僕をじっと見る。 「貴方が欲しいものはなに?」  僕は思いを巡らせる。  欲しいもの。最初に口をついて出たのは。 「内定」 「それってなに?」  ミケが首を傾げる。 「採用試験に受かるってことだよ」  僕が答えてやると、ミケは「ふうん」と興味なさげに相槌を打った。 「あとは?」 「彼女」 「なにそれ。よく分かんない」  ミケが自分の尻尾で遊び始めた。見かねたミコトが口を開く。 「道標(みちしるべ)が見えない。本当に欲しいものはそれらではないようだ」  他に欲しいもの?  ――ああ、あるじゃないか。これさえあればなんでも手に入る、とっておきのものが。 「自信が欲しい」 「そんなの勝手に持てばいいじゃない」  ミケは不思議そうに言った。 「無理だ。今のままの僕じゃ、自信は持てない」 「どうして?」  ミケは本当になにも分からないらしい。僕はため息をついた。 「就職活動も上手くいかないし、恋人もできない。僕は誰からも求められていない。つまり、生きる価値のない人間なんだ」 「価値ってなに? 価値のある人間ってどんな人間?」 「ミケ」  ミコトの声は小さかったのに、なぜかこの場に響いた。ミケが口を閉じて俯く。 「今のは良くなかった。しかし、迷っている人間に質問し、自分で考えさせたのはいい判断だ」 「難しいのね」  ミケは上目遣いでミコトを見た。 「お手本を見せて」  ミコトは顎に拳を当てて咳払いし、口を開いた。
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