シーズン1「春はあけぼの。やうやうゲームにそまりゆく」

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 翌日からいつもの日常に戻った。味がしないガムを噛むような日常。のはずが、放課後が待ち遠しくてワクワクしてソワソワしていた。 「牧田くん!飛鳥くん!部活行くよ!」 ほら来た。中くらいだ。あれから毎日迎えに来る。二人を連行するように部活に連れていく。牧田は無口だけど、まんざらではないようで、毎日学校に来るようになった。部活では色んな人が牧田に勝負を挑んでは返り討ちにしている。すっかりヒーローだ。オレはその様子を横目で見ながらサッカーゲームをのんびりと遊んでいる。牧田に挑んで負けて、悔しそうに帰っていく姿が、道場やぶりを返り討ちにしたかのようで、見てるだけで誇らしい。その日も同じ光景が見れるかと思いコンピュータ室に入ったら、いつもと様子が違っていた。ゲームがない机にずらっと横並びで五人が座っていた。 「連れてきました。さっ、そこに座って。」 「は、はぁ」 オレと牧田はいつもと違う様子に戸惑いながらも、言われるがまま椅子に座った。五人の前にオレと牧田。まるで面接。 「牧田くんと飛鳥くんだね。ゲーム部へようこそ。部長の中野英光(なかのひでみつ)だ。ハンドルネームは、中メガネ(NAKAMEGANE)」 「中メガネ部長とでも呼んであげて。気に入ってるみたいだから」 中くらいがすかさず突っ込みを入れる。中メガネと中くらいか。プププ。一人笑いを我慢する。 「私たち三年はもうすぐ引退。ニ人が入ってくれたおかげで廃部は免れたよ。ありがとう」 特に入りたい部はないし、楽しそうだし、入部届を書いた。中学まで運動していたオレには、ゲームして楽しいだけでいいのかなってちょっと罪悪感もある。 「将棋部と囲碁部とかるた部が合わさってできた部で伝統もあるから、私の代で潰さずに済んだよ」 そうだったのか。まぁ考えてみればそうか。テレビゲームで遊ぶだけの部なんてあるわけないもんな。 「今日は新入部員との顔合わせと打ち合わせを行います。全員がそろうことは奇跡に近いからね。いつもみんなさぼりまくりだから」 確かに。足を運ぶようにようになって一週間ぐらい経つけど、中くらい以外、顔を見たこともない。 「仕方ないじゃない。競技かるたやるの私しかいなくて、かるた教室通ってるんだから。あっ。私、二年の菅原美智子(すがわらみちこ)、みっちーって呼ばれてるわ。宜しくね」 「年に一回、学校行事として百人一首大会があるんだけど、ゲーム部が全部仕切りをやることになっていて、みっちーがほぼ全部やってくれてるの。いないと困る存在ね。そういえば……私ってちゃんと自己紹介したことあったっけ?二年の佐藤友美(さとうともみ)。今更だけど宜しく」 わわわ。名前もなんか中くらいだ。日本人の名前を多い順で並べたら絶対中くらいにいるはず。
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