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「どなた?」
扉が開かれると部屋の灯りがポーチに漏れて、玄関脇に飾られたランタンに光の粒を落とす。
「あら。トリック・オア・トリート!
こんばんは、ジャック・オ・ランタンさん」
女王様のご加護が満ちた家は、僕の家とは違って温かそうだ。ジーンの家の周りは荒れ果てて、畑から牧草地になってしまった部分もあるけれど、立派な家構えは変わらない。
並んで厩と平屋がある。一帯の地主であるジーンの親父さんは、家の一部を宿屋にしたらしく、貧乏そうな行商人が痩せた馬を繋いでいた。
草を喰む馬の近くにも、カボチャくり抜いてお面にしたランタンが飾られている。
元気にハロウィンの挨拶をしたが、すぐにジーンの顔色は青くなった。
「……残念ながら、お菓子がないのよ。ジャック・オ・ランタンさん。
ああ! でも、ジャガイモをふかしたの。よかったら、召し上がっていらして」
そう言って、パタパタと室内に走っていく。すぐに彼女は小さな鍋を持って戻ってきた。ホーローの蓋を開けると、黄色いかたまりから白い湯気が立ち上る。揺れ動いて消える様は、ゴーストのようだ。
まさかジャガイモを見ると思わなかった。
「ほんの少しで、恥ずかしいのだけれど」
恥ずかしそうにジーンが俯くと、陽の光を浴びて彼女の顔じゅうに皺が刻まれているのが目立った。
けれど、美しい顔は変わらない。
半世紀前と同じ笑顔を、カボチャ越し、夕焼け色に映し出す。
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