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「ごめんなさいね、ジャック・オ・ランタンさん。こんなおイモじゃ、若い人は喜ばないわね」
「いいえ、いただきます」
「あら、しゃべった」
ジャガイモが貴重なものにも関わらず、見ず知らずの僕に振る舞ってくれる。僕がカボチャを被ったままでいると、「外さないの?」と指差してくるので、かぶりを振る。ふふふ、と笑う彼女の声が、くりぬいた部分の空洞に響く。
玄関口じゃなんだから、と丁寧に室内に誘してくれたが、僕は辞した。
「こんな田舎で回っても、大してお菓子を貰えもしないでしょうに。都会に行けば、若い人もたくさんいるでしょう。それこそ、大陸に渡ったらもっと違うんでしょうけど。
……あなたのご家族は、移住されなかったのね」
「いえ。僕の家も、一家揃って」
「あら、そうだったのね。じゃあ、Éire(アイルランド)に最近戻ってらしたの?」
僕が黙っていると、構わずにジーンは地平線の先へ視線を移し、呟いた。
「私の幼馴染も、America(アメリカ)に渡ってしまったわ」
彼女の視線の先にある場所を、僕は知っている。
海の向こうの都会からここまで、ついさっき、移動してきたばかりだ。
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