ねこはしる。

3/3
前へ
/3ページ
次へ
みゃあと声がした。 あれっと思った視界の端で、 何かがひょっこり顔を出す。 自販機の陰、明るい縞茶(しまちゃ)と白の毛並み。 「あぁ、モモ…!」 身体中の力が抜けて、 その場にへたりこんでしまう。 自販機の陰からしなやかに抜け出たモモは、 コンクリートにぺたりとついた私の腕に柔らかい体をこすりつけた。 何してるの、ちょっとお散歩しただけじゃない、 とでも言うように。 私は何も言えないまま、 モモをしっかり抱きしめた。 だめでしょっと叱って、すぐに家に連れ帰って… なんて考えていたはずなのに、 へたりこんで抱きしめたまま、 しばらくちっとも動けなかった。 モモは私の腕の中で、 なんだか窮屈そうな顔をして、 時折みゃあと鳴いていた。 小学校からチャイムの音が聞こえた時、 私はやっと立ち上がった。 両腕にモモの毛並みを感じながら、 走ってきた道をゆっくり戻る。 だめじゃないの、困った子ね。 ようやく、そんな言葉が口を出る。 「帰りましょうね、モモちゃん。 おうちに帰ろ。 あなたの居場所は家の中ですからね」 洗濯日和の日差しが注ぎ、 モモが小さくみゃあと鳴く。 温かな体を抱きしめる私は、 神様にお祈りまでしたことを、 もう綺麗に忘れていた。 おわり
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加