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そんなことをすっかり慮外においていた10日ほど後、またぱちんぱちんと音がした。
清爽な早朝、見下ろすと、いつのまにやらうっすらと雪がつもっていた。
その中で小さな足跡をつけながら、くだんのモモンガがきょろきょろとまわりを見渡していた。
「かみさまかみさま。おれいにきました。すこしけがはえました」
よく見ると、たしかに少しだけ毛は増えているようだった。
ただ、想定より少ないな。
見るともなく見ていると、小さな手で何か栗色のものを差し出した。
「かみさまですから、かみがいいとおもって、おれいにもってきました。はやしていただいた毛です」
わしは神様ではあっても髪様ではないのだが。
……所詮はモモンガか。
願った毛を自分で抜いてどうする。
しかしその表情はひどく満足そうでもあった。
成長した雄のモモンガの頭頂の毛が抜けるのは世の理でもある。
これはこれでうまくおさまったのかもしれない。
まぁ、良き哉、良き哉。
それから、そのモモンガの寿命がつきるまで、祠には定期的に栗色の毛がささげられた。
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