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ぱちんぱちん。
小さな柏手が響く。
「かみさまかみさま、ぼくにかみのけをください」
清麗な冬の早朝、声に気づいて雲のすき間から見下ろしてみると、掌を広げたくらいの大きさのモモンガが目をつぶってなむなむと呟いていた。
モモンガはそろそろと目を開けて、きょろきょろと周りを見て落胆し、またぱちんぱちんと手を叩いた。
「かみさまかみさま、ぼくにかみのけをください」
そしてまた、なむなむと呟いている。
わしの祠は放置されて久しい。もちろんモモンガが参りに来ること自体も初めてだが、その賓客はなにやら必死で、面白かった。
『これ、お主。なぜ髪の毛がほしい』
モモンガは、ひゃあ、といってころりと後ろに倒れた。
『大事ないか』
「は、はい。だいじょうぶです。あの、かみのけがほしいのです」
モモンガは自らの頭を指し示す。頭頂部の毛はすでになく、ペトリと頭の脂がかたまっていた。
『そなた、雄であろう? 雄は臭線があるものだから、毛がなくなるのは致し方あるまい?』
モモンガは頭をぺちぺち叩きながら言う。
「そうなのですが、わたしはもてないのです。ほかのおすとなにかにおいでもちがうのでしょうか。もてないなら、かみのけをもとにもどしてほしいのです」
そう言って、そのモモンガはフンフンと頭の脂を引っ張りはじめた。わしには自分でうぶ毛を抜いているようにしか見えぬ。
その様子はなにやらやぼったく、もてないだろうな、と思わせた。
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