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プロローグ 安楽死を求める時代
西暦2035年。
世界は闇に満ちあふれ、人々は将来に望みを持てず陰鬱な日々を送っていた。
地球のあらゆる場所で自然災害が多発し、雇用情勢は著しく悪化。医療費も高騰し、若者の間では老いてまで生きていたくないという観念が浸透。ほとんどの国で積極的な安楽死が合法化され、皮肉なことに遂行を希望するのは若年層が多かった。
そして最近では、安楽死を選んだ人間は"死後の世界"、通称『死後国』に導かれ、新たな人生を送れるという迷信がどこからともなく出回り、進んで死を選ぶ者が増えているという。
もちろん、そんな世界が存在する証拠など皆無だし、死んだ人間に聞けるはずはないのだから、実際は死んでも"無"なのかもしれない。ただ、こんな何の希望も持てない現実を嘆いて絶望を生きるより、いっそ生まれ変わりたい、そう願う人間も一定数いるというわけだ。
ここ日本も例外ではなく、2030年から安楽死を法で認めていた。
ちなみに、先ほどから述べているこの"安楽死"とは"自殺"とは違い、当然本人の"死にたい"という意志が前提ではあるものの、実際の"行為"を遂行するのは専門の医師である。患者は痛みも苦しみもなく薬で眠るように逝け、医師側も罰せられることはないので安心して仕事ができる。仮に患者を死に至らしめたことによる罪悪感を感じたとしても、彼らの精神をケアする体制は整っているし、給与も抜群によく離職率は低いのだ。
これは、安楽死が当たり前のように求められた近未来に生きる少年少女たちが、改めて"死"と向き合う姿を描いた物語である____。
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