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Chapter1 謎の光
2035年1月9日。
俺は高校の3学期の始業式を終え、一人農道をのんびりと歩いていた。
ここ千葉県いすみ市は、中央をいすみ鉄道が走り、海と山に囲まれた自然豊かな場所だ。
俺、茅島清人は8歳の時に、東京都心からこの地へと引っ越し、17歳の現在に至るまで自然と戯れて暮らしてきた。
引っ越したきっかけは、9年前に俺が交通事故にあったこと。当時住んでいた家の近所の道路にふいに飛び出し、ダンプカーに轢かれた。幸い一命はとりとめ、大きな怪我もなかったが、その事故の後遺症で8歳以前の記憶がまるでなくなった。なので、東京での出来事は未だに思い出せない。
都会は車が多くて危険と判断した両親が、のどかな田舎のいすみ市に仕事を見つけて移住した。
俺にとってはいすみが故郷であり、過ごしやすくて好きだ。ただ本当に何もない田舎で、かなり退屈もしていた。
「あーあ。今日からまただりぃ学校生活か。つまんねえ毎日の始まりだ。死にたいな」
俺は独り言を呟きながら、腹いせに生い茂る草木の葉を強引に破った。
俺の頭に幾度となく過る、"安楽死"という選択。それを選べば、苦悩や虚無感からの"解放"と引き換えに、自分の未知なる可能性を永遠に閉ざすことを意味する。
俺は事故以降、特に何の興味も示さずつまらない日々を送り、いつしか漠然と"死"を意識していた。
何をするのもバカらしく、意味がないと思った。
学校で数学や英語を勉強しても、それが何かの役に立つ保障はない。うまい飯を食ったって、いつかは糞として排泄されるだけだ。
結局人間を含めた生物は、死に抗っても回避することなど不可能で、体が老いて不自由な生活を送り、病気になって苦しんで果てるくらいなら、若いうちに眠るように死にたい____。
俺はそんな風に考えていた。
日本で安楽死が認められてから5年。死期が近い病の者だけでなく、自分の意志を伴う自殺としての死も受け入れられ、未成年でも親の同意なしに実行可能だ。
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