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助三郎がアイツに出会ったのは昨年のことだった。
その日のことを思い出すと、必ず儀平のことが助三郎の頭によぎる。
幼なじみの儀平といつも一緒にいた助三郎は、あの日も、アイツに出会う少し前の時間にも、儀平と田んぼのそばで寝そべって、他愛もない話をのんびりしていた。
「なぁ、助三郎は武士にならないのか?」
最近よく出る話題は、こればかりだった。
先日は村の若いもんが一人、戦ばたらきに行った。
「おっかなくてなれないよ。そういう儀平はどうなんだ?」
「おれも、おっかなくて行けなんだ。銭が手に入るのは気になるがな」
今はお昼の休憩中。午前中頑張った証に、秋風を浴びる干した稲穂が並んでいる。そして、二人ともまだ若いのにくたびれた顔をしていた。
「ああ。近くで戦が始まったら、おらは山に一目散に逃げてしまう」
「そうだな。助三郎に武士は無理だな」
「儀平もだろ。……けど、銭は欲しいよな」
「銭は欲しいな」
そう思ってしまうのは、最近実りが悪いせいだった。
助三郎がいる村での今年の稲のできは例年より少なく、他の穀物もそうだった。
しかも、稲は税として納めなければならず、僅かな作物は戦をするために必要だからと取りあげられ、一部では暴徒と化した武者に田畑を焼かれる被害も出る始末で――、
「あんたはまだやるのかい」
「そうだな。おらは今日はもう少し頑張ってみるよ」
畑へ向かおうと立ち上がった助三郎に対し、儀平は疲れきった顔で帰っていった。
やる気がなくなるのは無理もなかった。
助三郎は村人に認めてもらうために精をだしているだけで、実際は助三郎ももうくたくただった。
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