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「鬼め。出てけ」
突如そう叫び声があがった。
畑にいた助三郎は、オニが追いかけられていくのをぼんやりと目で追う。
(ああ。この村を苦しめていたオニが追い払われたんだ)
栄養が行き届いてない疲れきった頭で、ただそう思った。
オニが出るという出来事があったあとも、助三郎はふらふらになりながら土と格闘し続けた。
「なにか食べ物をください」
「他所の子に食わすもんはな……いぞ」
そろそろ帰ろうかというとき、幼い声に話しかけられた助三郎は振り返って固まった。
傾いた陽に浮かぶその子どもの頭には二つの突起が付いている。
「お……」
「おおかみにしてください」
オニだ、と助三郎が言う前に奇妙なことを申した子どもは、ぱたりとその場に倒れこんだ。
「えっ」
助三郎は思わず子どものそばに駆け寄った。が、その子の頭を目にして、伸ばした手を止めた。子の頭にある角だと思っていたもの、それが犬の耳だったのだ。
助三郎は訳がわからなくなり、「へへっ」と変な笑い声が漏れた。
と、そのとき、子どもの腹から間の抜けた音が響いてきて、空腹であることを訴えてきた。
頭が混乱する中、ただ無意識に体が動いた。助三郎は、子どもを抱えて家に連れ帰ったのである。
これがアイツと助三郎の出会いであった。
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