農民助三郎の願い

3/8
前へ
/8ページ
次へ
「鬼め。出てけ」  突如そう叫び声があがった。  畑にいた助三郎は、オニが追いかけられていくのをぼんやりと目で追う。 (ああ。この村を苦しめていたオニが追い払われたんだ)  栄養が行き届いてない疲れきった頭で、ただそう思った。  オニが出るという出来事があったあとも、助三郎はふらふらになりながら土と格闘し続けた。 「なにか食べ物をください」 「他所の子に食わすもんはな……いぞ」  そろそろ帰ろうかというとき、幼い声に話しかけられた助三郎は振り返って固まった。  傾いた陽に浮かぶその子どもの頭には二つの突起が付いている。 「お……」 「おおかみにしてください」  オニだ、と助三郎が言う前に奇妙なことを申した子どもは、ぱたりとその場に倒れこんだ。 「えっ」  助三郎は思わず子どものそばに駆け寄った。が、その子の頭を目にして、伸ばした手を止めた。子の頭にある角だと思っていたもの、それが犬の耳だったのだ。  助三郎は訳がわからなくなり、「へへっ」と変な笑い声が漏れた。  と、そのとき、子どもの腹から間の抜けた音が響いてきて、空腹であることを訴えてきた。  頭が混乱する中、ただ無意識に体が動いた。助三郎は、子どもを抱えて(うち)に連れ帰ったのである。  これがアイツと助三郎の出会いであった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加