農民助三郎の願い

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 独りで暮らす小屋に帰ってきた助三郎は、寝床としている(むしろ)の上に子どもを寝かせ、雑炊作りにとりかかった。  助三郎がどうしても子どもを放っておけなかったのは、親を早くに亡くした自分と重なって見えてしまったからだった。  助三郎は村人たちに、特に儀平の親に良くしてもらい、儀平とは兄弟のように育ち、おかげで今は一人前の男に成長した。 (いや、まだ一人前として認められたわけではない。村で認めてもらうために、村に恩返しをするために、人一倍働くのだ)  助三郎が成長してきた日々を思い返していると、雑炊ができあがった。  子どもが鼻をひくつかせて目を覚ます。 「どうだ。食えるか」  助三郎が訪ねながら茶碗に雑炊を注ぐと、次の瞬間には茶碗は奪われ、子どもががつがつと食らいついた。  そんな子どもを眺める助三郎は夢でも見てるような気になってくる。その子どもの姿が異質すぎるのだ。  犬耳だけでなく、身なりもおかしい。農村では見慣れない白い衣を着ていて、その袴の裾はすぼめられている。しかも髪型も変である。両耳の横にまとめた髪がついているのだ。 「ありがとうございます。こがみの私は人が捧げるもので飢えをしのぐしかないのです」  ひとしきり食べた子どもがまた妙なことを口走しり、目の前の状況を処理しきれていなかった助三郎の頭は追いつけず、助三郎は渋い顔になった。 「……それは、どういうことなんだ」 「そうですよね。説明いたします」  子どもの説明によると、その子どもは神様見習いとして修行中の半生命体の小神(こがみ)である。そのため、肉体を持つ小神は普通の生物同様にお腹も空くが、人からの捧げもの以外は口にできない決まりがある。そして、捧げた者の三つの願いを叶えてあげれば大神(おおかみ)になれるらしい。 「だから、私にあなたの願いを叶えさせてください。私を大神にしてください」 (なんでそんなに必死なのだろう)  小神が助三郎に懇願する内容は、誰でもできる簡単なことだ。 「願いごとをすればいいのだろ? ならば、良い土地がほしい」  訳がわからずに、肥えた実りの良い土地がほしいな、と思いながら適当にお願いを告げると、小神が嬉しそうに笑い――、助三郎の意識が途切れた。
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