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久しぶりに意識を失った助三郎が目を開けると、いつもの小屋にいた。戦場から離れた、実りが悪く寂れた村にある小屋だ。
「助けてくれてありがとうな」
戦場に向かう途中で手に入れていた柿を助三郎は小神に渡すと、ふらりと小屋を出て歩きだした。
「まだもう一つ叶えられます」
「わかっているさ」
助三郎は、慌てて声をかけてきた小神に力なく笑い、足を進める。小神がそのあとを静かについてくる。
(わかっているさ。欺いた罪で追われる身のおらはこの村にいられない。そして、この故郷を救うには三つ目のお願いでなんとかしてもらわなきゃってな)
「あんたが戦い以外も叶えられるなら、この村を、おらの故郷を救ってくれ」
「それであなたは納得しますか。とても辛そうです」
小神が叶えずに訊ねてきて、助三郎は足を止めて小神をじろりと見た。
「あんたがもう少し早く来てくれれば、今ごろおらは勝利を収めて、殿様に褒美として村を救うようにお願いしてみんな丸く収まっていたよ」
「そんなまどろっこしいことせずとも、最初から私に村のことを願えばよかったのに」
苛立ちをつのらせる助三郎に対して、小神は首をかしげる。
「信じられなかったのだ。あんたがちゃんと戦い以外も叶えられるか。
だから、おらなりに考えて戦場に行った。結局、追われる身になった。欺いた罪で追われる身のおらはおらの大事な故郷のこの村にいられない……」
助三郎はしゃがみこみ、名残惜しいこの村の土を掴んだ。
「なにを言っているのですか。あなたを追う者はいませんよ。先ほど願い通り助けましたので」
淡々とした小神の言葉に、あることに気づいた助三郎は息を飲んで小神を見上げた。
「……え。助けるって、もしかして逃げてきただけじゃなくて……」
「はい。あなたを追っていた忍者たちも、命じた武将もこの世にいません」
「な。なんだ、そうだったのか」
逃亡生活を覚悟して気が立っていた助三郎はへなへなと座りこんだ。
知らぬ間に命を刈ってしまったことを悪くは思わなかった。やらねば自分がやられていたのだ。
「じゃぁ、おらはこの村にいられるんだな。なら、喜んでこの願いを言えるよ」
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