農民助三郎の願い

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 十年後――。  助三郎は今日も朝の野良仕事を終えると、仰向けになった。  青く澄んだ空を蜻蛉(とんぼ)がせわしなく飛び回っていて、聴こえるのは軽やかな風の音と虫の音色と―― 「とうちゃん。飛蝗(ばった)捕まえたよ」 「明日の飯にするか」 「だめっ」  畦道(あぜみち)で遊ぶ子どもらに混じっていく我が子を見届けて、助三郎は少し寂しくなって息を吐いた。  さっきのやり取りを一緒に笑ってくれる友は隣にいない。  小神のおかげで村は豊かになった。ちゃんと三つのお願いを叶えた小神は大神になることができて、天に消えていった。  けど、いつも一緒にいた幼なじみはこの村に帰ってこないままだ。  もしあの戦場でのことが上手くいっていたら、三つ目のお願いは、儀平を呼び戻すことだった。  家族同然だった者と再び近くで暮らしたかったが、儀平がどこに行ったのか助三郎はわからなかった。  助三郎は、まだまだ高いお天道様を目を細めて見上げる。  この陽の下、幼なじみも元気に暮らしていてほしいと思うのであった。
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