パン屋さんの迷い

1/1

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ

パン屋さんの迷い

あれから先生がこない。 初めは、『私 なんかまずったかなぁ』と思った。急に“先生”とか呼んじゃったし、私服かわいげなかったし、と悩んだ。 一週間たったら、『もしかして 病気とかケガ?』と心配になった。 二週間たったら、『もしかして転勤?』とか考えて悲しくなった。 こんなことなら、せめて気持ちだけでも伝えておけばよかった。考えたら私は 先生の名前すら知らないし、あこがれてただけだ。 店長は、 『まぁ ご縁があればまた会えるよ』慰めてくれた。 まぁお客さまは彼だけじゃないし、ちゃんと仕事しなきゃ。職場のみんなもあんまり心配させたくないしね。 でも、仕事終わって一人になると、駅の改札や電車待ちの時間にふと思い出してしまう。スーツも素敵だったけど、私服の先生もかっこよかったなぁ。すれ違う中学校。制服やジャージの子を羨ましく思ってしまう お客と店員である以上、顧客を失いたくない、と理由をつけて何も行動しなかった癖に、会えなくなったら激しく後悔してしまう。意味もなく私服を可愛くしたり、電車を一本見送って、改札の向こうを眺めたり…。 自分でもこじらせてるなってわかってる。ほんとに、こんなに会えなくてさみしくなるなら、気持ちだけでも伝えたらよかったな。もうすぐ会えなくなって1ヶ月がたつころ、家の鍵をあけながらこらえきれなくて—涙がこぼれた—
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加