パン屋さんの溢れる思い

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「実はね。好きな人がいる」やっぱり、という顔をする2人。 「お客さんなんだけど、中学校の先生ということ以外何も知らない」黙って聞いてくれる。 「週三くらいで来てくれたのに、ここ1ヶ月くらい来てくれなくなったの」 「転勤とかじゃなくて?」 「あぁ引っ越したとか?」と2人が交互に言う。 「来なくなる前に、たまたま駅で会ったの」思い出すだけで、先生に会いたくなる。 「お店でもまともに話したことないのに、私いきなり彼のこと“先生”って呼んじゃったの」ふぅと息を吐く。 「前にお店で、地元中学生に、『先生』って呼ばれてたから、思わず私も“先生”って呼んじゃったの」 「え?名前知らないんだしよくない?」葉瑠はそう言ってくれる。 「うん。それに、たまたまあったその日、私むちゃくちゃ女子力低い服装だったし、」その日から 彼はお店に来ていない。 「いや、仕事帰りだし、仕方なくない?」 確かにそうなんだけど…。 「この前たまたま中学校の前を通ったんだけど、彼元気そうで、ちょっと安心した。でも同時に、なぜパン屋にこないのか?と思ったら、嫌なことばかり考えちゃって…」 「それで落ち込んでるわけだね」 うん、と頷く。話ながら先生の顔を思い出してしまう。パンを選ぶ真剣な顔。嬉しそうに食パンを眺める顔。お会計の時の柔らかい笑顔。生徒に見せる“先生”の顔。思い出してた思わず笑顔がこぼれてしまう。 「さな‥‥」目の前で葉瑠と瞬太が困った顔で私を見ている。 二人の表情を見て、ふと自分のほほを冷たいものが伝っていることに気づく。あっ‥ 私泣いてる。 「何にもしらないの、彼のこと。でも、半年店員とお客様の関係で見せてくれた彼の雰囲気って言うか、笑顔が好きで、私…私彼が好き…」何言ってるかわかんなくて、でも2人を前に、たまってた気持ちが溢れて、声も出さずに泣いた。あとからあとから出てくる涙を構わず流した。
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