先生の事情

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「いらっしゃいませ」 いつも通りパン屋さんに足が向いてしまう。彼女の笑顔に少しにやけてしまう自分が気持ち悪い。その笑顔に勘違いしてる訳じゃない、と言い聞かせても、自分に向けられるその笑顔に、嬉しさを隠せない。 「あ、ごめんなさい。今日食パン売り切れちゃったんです。」俺の顔を見て、彼女は、申し訳なさそうにそう告げる。俺がいつも食パンを買っているのを知っているからだろう。そういうことも、うれしく思ってしまう。 「あっ そっかぁ」と言って、店内を見渡す。何を買おう。 「フランスパンかクロワッサンとかおすすめですけど よかったら」と佐倉さんがすすめてくれる。 「あぁじゃぁクロワッサンで」 思いがけない会話に心躍らせてしまう。その気持ちを必死で抑えクロワッサンをながめる。 「ありがとうございます。うちのクロワッサン、大きめなので男の人にも評判いいんですよ」佐倉さんが笑顔で応対してくれる。 俺も笑顔になってしまう。2人だけの空間、二人だけの時間に幸せを感じる。 「ありがとうございました」佐倉さんの笑顔に見送られて店を出る。 ほわっとした温かい気持ちに、ちょっと進展したような気分になってしまう。 俺って単純だなぁ。 暗くなった空の下を、明るい気持ちで歩いていく。
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