パン屋さんの気持ち

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パン屋さんの気持ち

週に何回か食パンを買ってくれる人。 加宮ベーカリー(うち)が直接パンの納入をさせてもらっている、一中の先生だ。たまに一中の体育着を着た子に『先生』と呼ばれているから、間違いなく事務員ではなく先生だと思う。  わたしは佐倉(さくら) 紗奈(さな)。加宮ベーカリーというパン屋で働いている。 店長の代わりに一回だけ、パンの納入に行った時、給食室がわからなくて、職員室にいったら、やさしく案内してくれた先生。お礼をいったら、爽やかな笑顔をむけてもらった。よく見たらわりとタイプの顔で、ドキドキしながらお店に戻った。 それからほどなくして、先生はお店に来てくれるようになったけど、何も言ってこないし、私のことわからないのかな?とか考えてしまって、私も話しかけるタイミングを逃してしまった。 けっこう頻繁に来店してくれるから、顔なじみではあるけど、こんなに話すのは初めてだ。 今日は、早い時間に食パンが売り切れてしまった。 先生はいつも食パンを買ってくれる。だから、先生が来店してくれた瞬間、思わず、『食パン売り切れてます』と言ってしまった。 残念そうな先生。思い切って、フランスパンとクロワッサンを薦める。クロワッサン好きの店長が「がっつり食べたい」と言う理由で大きくしたやつだ。 そのおかげか、少し高いけど男性受けがいい。先生は少し悩んで、クロワッサンを買ってくれた。話ながら改めて先生をみる。あぁやっぱりタイプ。向けられた笑顔に。ちょっと好きになる。爽やかだし、ちょっとはにかんだり、でも先生っぽいしっかりした感じもかなりいい。こりゃ生徒にももてそうだなぁ。などと考えてしまう。 「ありがとうございました」先生の後ろ姿を見送る。 あんな先生に教えてもらえる、生徒の皆さんを、ちょっとうらやましく思いながら、仕事に戻る。
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