アイよりコイよりひとつのココロ

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「私もクマさんとか、マスコット系のキーホルダー好きでたくさん持ってるの!クレーンゲームとかでもついついお金使っちゃうくらい。でもこのクマさんはまだ見たことなくて、どこで手に入るのかなっておもって。私も欲しいなーとか思ったんだけど……あ、言いたくなかったらいいよ、気にしないで!」 「……これは、その」  紫雨はわかりやすく安堵した表情になると。受け取ったキーホルダーを、なんだか愛しそうに見つめた。もしやこれは、と私は気づいてしまう。紫雨くらい可愛い顔をしていたら、彼女くらいいてもおかしくない。そういう人に貰ったとか、そういうことなのだろうか。  ならば、傷は浅いうちに撤退するに限る。私の恋心の寿命短いなおい!と内心がっくりしながらも、笑顔だけは取り繕う私。 「お、もしやカノジョさんに貰ったとか!?天城君なら、彼女くらいいてもおかしくないよね、かっこいいから!」 「ち、違うよ、そんなんじゃないよ!彼女なんかいないって!」 「あれ、そうなの?」 「大切な人から貰ったのはそうだけど、彼女とかじゃないし、今付き合ってる人がいるとかでもないし!確か、A駅のとこのゲームセンターで取ったって聞いた気がする。最近俺も行ってないんだけど……」 「う」  彼女がいないというのなら、それはまあ信じることにして。キーホルダーに興味があるというのも断じて嘘ではなかった私は、別の意味で固まることになった。  先ほど言ったように、私はクレーンゲームが好きだ。欲しいものを取るために、何百円どころか何千円とお金を使ってしまうこともザラにある。要するに、下手くそなのだ。大抵最終的には、見かねた店員さんが取りやすい位置に移動させてくれたり、アドバイスを受けたりしてどうにか、というパターンばかりなのである。  またキーホルダー一個ゲットするために、お財布が寂しくなる運命だろうか。やや白目になっていると、どうやら私が何を考えているのか紫雨にはすっかり筒抜けであったらしく。 「……俺も久しぶりに行こうかと思ってたし。今度一緒に行く?クレーンゲーム得意だから、取ってあげられるかも」 「マジ!?」  まさかのまさか、ものすごい親切な申し出があった。私は内心小躍りしたい気持ちでいっぱいになる。すぐそこの駅前のゲーセンに一緒に行くだけ。デートと呼べるようなものではないかもしれないが、それはそれ。気になる可愛い男子と一緒に遊びに行けるとなって、喜ばない女が一体何処にいるというのか! ――やっりいいい!今日の私、めっちゃツイてる!  ちょっと落し物を拾っただけで、まさかこんな幸運が巡ってこようとは。  不安でいっぱいの高校生活であったが、四月のしょっぱなから思いがけない幸運を用意してくれていたようだ。最高ではないか。
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