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気になる子の前では、ちょっとくらいいいカッコ見せたい。それは女子とて同じことなのである。
紫雨に取って貰えるのも嬉しいが、できれば最高のクレーンさばきを見せて少しは彼を感心させたい。私はそう思っていた――ほんの十分前までは。
「と、取れん……!何故に!」
彼が言う通り、そこのゲームセンターには同じクマのキーホルダーが入ったクレーンゲームがあった。アームを使ってフックから上手に外して、ホールに落とすというシンプルなゲーム、なのだが。
言うほど簡単ならば、世の中のゲーマーはこんなにも苦労していないのである。
まずアームで、景品が入った箱を掴むのが非常に難しい。アームの力が弱いせいで、多少引っかかっただけではまったくフックから箱を引き剥がしてくれないのである。RPGゲームやバトルゲームでいうところの、クリティカル判定が必須といったところなのだ。
また、どうにか箱を掴むことに成功しても、取り出し口の穴に落とすまでに箱が落下してしまってうまくいかない、なんてこともなくはない。アームのキャッチ力がもう少し強ければ!なんて文句を言ったところでどうにもならないのだが。
「小坂さん、俺やってみてもいい?このタイプのやつならそこそこ得意だし」
「うう、オネガイシマス……」
結局、紫雨に頼むことになってしまった。二百円を投入し、いざチャレンジ。そこそこ得意、という言葉は伊達ではなかったらしい。彼は箱の隙間にアームを差し込むことでがっちりと固定することに成功、あっさりとたった一度でキーホルダーをゲットしてみせたのである。
そういえば、クレーンゲームの技の一つとしてこういうものがあるとは聞いたことがあったが(箱をそのまま掴むのではなく、箱の隙間にアームを差し込むテクニックだ)、まさか実践でそれを見ることになるとは思ってもみなかった。
「はい」
「あ、ありがと……!天城君、ほんとゲーム得意なんだねえ……!」
心の底から賛辞を述べると、彼は照れたように笑って“それくらいしか取り柄ないけどね”と告げた。彼が笑うだけで、心臓が高鳴ってどうしようもなくなる。やっぱり、可愛らしい。半分は母性本能というやつなのかもしれないが。
「天城君にクマさんをくれた人も、ゲーム得意だったの?プレゼントしてもらったって言ったけど」
だから、自分でも失敗したと思うのだ。いくらもう少し話を続けたかったからといって、よりにもよってその話題を選ばなくても良かったはずなのに。
彼は一瞬、ほんの一瞬さみしそうな顔をして、すぐにまた微笑んで言ったのだった。
「うん。……ゲーム友達だったんだよね」
なんとなく私は。彼は、その人のことが好きだったのではないか、と感じてしまった。
――その顔は、ちょっとヤだな……。
そして、会ったこともないその人物に対して、ひっそりと嫉妬に近い感情を抱いてしまったのである。
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