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いきなり一緒にゲーセンに行く、なんてことをしたものの。そこから先、私と紫雨の距離が縮まったかといえば、そんなこともなかった。たまに一緒にゲームセンターに行って遊ぶくらいの仲である。傍から見ると、デートというよりは友達同士でちょっと遊んでいるくらいにしか見えなかったことだろう。その頃にはもうすっかり、私の方は紫雨に夢中になっていたというのに。
いい加減、好きならば好きと伝えなければどうにもならない。
しかし、どうにも紫雨には好きな人がいるように見えるし、あるいはかつて好きだった人を忘れられていないようにも見受けられるのだ。その人物のことを解決しない限り、私達の進展はきっと有り得ないのだろうということも薄々感じていたのである。
転機が訪れたのは、彼と知り合って半年ほど過ぎた頃のこと。
そろそろコートを本格的に冬物に切り替えるべきか否か、まさにそんな十月の終わりのことだった。土曜日に買い物に出かけた私は、公園の近くで偶然紫雨の姿を見かけることになるのである。
――あれ?紫雨じゃん。どうしたんだろ。
その頃にはナチュラルに名前呼びをするようになっていた。向こうは呼び捨てではなく“魅子さん”だったので、なんだか若干距離を感じなくもなかったけれど。
人気の少ない公園で、紫雨はどこかそわそわした様子でトイレに入っていった。しかも、妙に大きなバッグを持って、男子トイレではなく多目的トイレに。
どうしたんだろう、と思って少し立ち止まって観察していると――彼は数分程度ですぐトイレから出てきたのである。ただし。
――ええ!?
声を上げなかった自分を、心の底から褒めたいと思う。
トイレに入る前までは、確かに自分が知っている紫雨の姿であったはずなのに。出てきたその人は――誰がどう見ても、綺麗な“女の人”以外の何物でもなかったのだから。
まさか、紫雨に女装の趣味があったとは思ってもみなかった。確かに彼は女の子顔負けの可愛い顔をしているし、声もかなり高めの方なので違和感はほとんど無い(どころか下手な女よりずっと美人)だとは思うが。いけないとわかりつつ、私はこっそり後をつけてしまう。
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