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――いや、ひょっとしたら趣味、なんかじゃないのかも。だって……。
すぐに、私は自分の浅はかさを恥じることになる。小己が、紫雨がきっと知られたくなかった秘密を暴いてしまったことに気づかされたからだ。
駅前で。女の子にしか見えない紫雨が、背の高い大学生くらいの男の人と会っていた。彼が待ち合わせ場所にやってきた時の紫雨の顔は、初めて見るくらいにキラキラしていて――恋をしている女の子の顔、以外の何物でもなかったのである。
そこでふっと、理解してしまう。初めて会った時から気になっていた、紫雨の手。男の子とは思えないくらい爪が綺麗に整えられていたし、今思うと透明なマニキュアもしていたような気がするのだ(爪先を保護する透明マニキュアなら、校則違反にはならなかったはずである)。彼は帰宅部で、手先を使うような部活にも入っていなかったはず。それなのに綺麗に整えていたとしたら、それは多分お洒落のために他ならなくて。
きっと、何もかも。大好きな人に、“女の子”として見てもらいたかったからで。
――ああ、そっか。そういうこと、か。
何もかも、わかってしまった気がした。
普通クラスの女の子と一緒にどこかに遊びに行ったら、部活のマネージャーとかでもない限りそれなりに“雰囲気”というものが出来上がるものだ。互いに意識を全く向けないなんてことは難しいだろう。それこそ、子供の頃から当たり前のように一緒に遊びに行っている関係でもない限り。
けれど私と紫雨は。名前を呼び合っても、一度も“良い雰囲気”になったことなどなかった気がするのだ。それこそ、まるで同性の友達同士であるかのような。理由は単純明快。最初から紫雨の中で、私という存在が、性別が、恋愛対象ではなかったからだとしたら。
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