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鍵は、確かに掛けたはずだ。
近づいてくる足音。私の夢は息の根を止められたというのに、まだ現実を突きつけにくるのか。
「アオイ、おい、アオイ。いるのか」
考えるまでもなく、あの男だ。
部屋の戸が開いて、ユメノがフワと呼んだあの男が入ってきた。昨日と変わらぬスーツ姿だ。
「おや、これはこれは」
わざとらしい抑揚の台詞。顔に浮かべた薄笑い。
やはり私は最初から、この男に弄ばれている。羞恥が心に湧いてくる。
「どうやって入ってきたんだ」私の声は枯れていた。
「鍵を開けることくらい、私には簡単なことですよ」
男の背後の窓で、暁が登り始めるところだった。
「ところで、絵は?」
私はスケッチブックを素早く掴み取って、見せまいとした。
男は私がやり遂げられなかったことを察したのか、あからさまな白けた視線を投げてきた。それからユメノに歩み寄り、縄に手を掛けた。
ユメノを縛める赤い縄が、呆気なく解けるのを、私は見た。
私が彼女を美しくするために、あれだけ頭を捻りながら作った縛めを、この男は無粋なまでに容易く消したのだ。
私は正体のわからない、圧倒的な力の前にさらされている気がした。みるみる己が萎縮していく、そんな想像の中に投げ出される。
「帰るぞ」
男の一言で、ユメノの目蓋が機械的に開いた。
「うん」
ユメノが普通に立ち上がる。私にされた仕打ちなど、なかったと言わんばかりに。
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