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私の両手から、スケッチブックと鉛筆が落ちる。
何も持たぬ手がユメノに、飛びかかる獣のように向かった。
ユメノの髪を掴む。悲鳴も抵抗なかった。容易く古畳に倒す。
私の心はむき出しになって、自分わけのわからないことを喚いていた。
お前の神が創ったお前をけがしてやる。
ユメノに覆い被さった。腕の輪の中で締め殺してやるといわんばかりに抱き、あらゆる言葉で詰った。
それが私という、凡悪の限界なのだった。
罵られてもユメノの表情は一筋も歪まない。人形を相手にしているような手応えのなさ。
それでも私を支配する狂乱──妬心だ。
そればかりは、明瞭に自覚していた。
近しい位置に神を持ち、それが与えてくれる絶対の安心と余裕のなかで生きているユメノへの嫉妬。
私の醜悪な罵りは延々と続き、やがて不明瞭な言葉と喘ぎに変わった。
目の前が濁っていく。その中に汚い色として溶けていくユメノを、ただ見ていた。
狂乱の末の意識の途切れがいつ起きたのかわからぬまま、私は目覚めた。
夜だったはずの窓の外が、白々と明けてきている。
私の身体の下でユメノが、かすかに胸を上下させて、眠っているようだった。
私は我に返った。
とにかく今すぐユメノの縛めを解かねばと突き動かされ、いきなりハサミを用いようとした。
朝凪の静けさの中に、よく聞く音が響く。
あれはシャッターの開く音だ。
どこの店だ。開店にはまだ早い。
次にしたのは──あれを聞き間違えるはずもない──私の店の出入り口の硝子戸が開く音だった。
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