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私が会うユメノはいつも、ボブスタイルにキャスケット帽を被って、白いシャツに短いパンツとスニーカー姿だ。少年のような身なりといえばいいのか。
かといってユメノは闊達ではない。むしろ、漂うように緩慢な動きをする娘だった。
私は店先のワゴンの本を、ユメノが好みそうなものに入れ替える。これまで彼女が買っていったものから、怪奇的な推理小説が好きなのだろうと踏んでいる。
そういった本の中で夜毎殺される女たちが、ユメノと、どこか重なる気がしている。
彼女と、話がしたい。来てもらったからには、店内にまで入ってもらわねば。
カウンターの内で待つ私は焦れて膝を揺らす。強い視線を、傍の壁に掛かった一枚の四六判の複製画に向ける。
陽のあたる畳の上に、複雑に縛められた襦袢姿の若い女が座っている様を、俯瞰して捉えた絵だ。肉感的な身体の描写よりも、光の薄い瞳が蠱惑的で、鑑賞する者の境界──どちらが囚えられた者なのか──を曖昧にしてしまう、魔力の棘を持つ絵。
初めて店に来たユメノが、これを見たとき言ったのだ。
「シギョウソウイチですよね。わたし、好きです」
執行草一とはこれを描いた画家のこと。この絵をはじめとして、嗜虐的な作品が多い。
彼はいうなれば私の「神」だ。
ただ天上にいるのを崇めることしかできない、永遠の憧れだ。彼が描いた女たちは、私にとっては欲望そのものだ。
まず緊縛だとかの分野に興味がなければ、執行草一自体を知ることもないだろう。
この女は執行草一を知っている。それだけで、友を得たようで嬉しかったが、私はその瞬間気づき、驚いたのだ。
ユメノの光の薄い瞳が、絵の中の女と同じであること。その顔貌全体までもが、絵の中の女に鏡写しの如く似通っていること。
私の神が描きし女が、この作品が生まれて四半世紀の時を超え、私の現実に、目の前に降り立っている。
そうとしか思えず、利き手が疼いた。
私は、運命を感じている。
この女を、私のものにしたい。
それから夜毎、彼女を待っている。
焦れる感情が苛立ちに変わる直前、硝子戸に人影が差し、店先に姿が現れた。
いつもの格好のユメノだ。
今夜も来てくれた。
私の神の女。
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