処刑は午前九時に執行します

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 僕は、怪物の生態はうっすらとしか知らない。  ハッキリと言えるのは、ヤツは両親のおかげで生きている。  両親が稼いだ金で、両親が衣食住を提供して、毎日安全に。  怪物の食事は、母が定時で部屋の前に置いている。きちんと蓋つきの容器に入れて、温もりを保った状態で。  昼だけは、怪物が自分で準備をするらしい。といっても、特大サイズのカップ麺が定番で、母はそれを切らすことなく購入し、台所の定位置に置いていた。平日月~金曜の五日分。僕が帰宅すると、油まみれの空容器がシンクに放置されている。汁は飲み干されており、くっきりと油の輪を滲ませたプラ容器は、怪物が生きていることを示す証だ。  土日祝日は、母が熱湯を注いだ状態のカップ麺を、部屋の前に置いている。  隣の部屋にいる僕の元にも、ニンニクやキムチの臭いが届き、ヤツの生命力を嫌でも感じる始末だ。  怪物が部屋から出るのは、トイレか風呂の時だけだ。  もっとも、それも生活音で判断しているだけで、出くわすことは皆無に等しい。偶然なのか、怪物が細心の注意を払っているのかは不明だが、僕は後者だと思っている。  僕も、両親も、生活パターンは見事にルーティン化しており、部屋に引きこもる怪物でも、たやすく把握できるのだろう。  風呂は皆が寝静まった深夜に入るらしく、洗濯物にも怪物の分がきちんと含まれている。  家族と顔を合わせたくない心境はわからなくもない。  家族。  口にしてみたら、想像以上に滑稽だった。
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