処刑は午前九時に執行します

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 家族。  アフリカだか南米に暮らす、ある少数部族は、「血の繋がり」をなによりも大切にしており、一族の者が傷つけられたら、必ず復讐をする決まりだという。  家族、などと、口にしていいのは、こういう人たちだろう。  その部族にとっては、「家族」がどれほどの愚か者であっても、助け合い、復讐までするのだから。  僕にはそんな殊勝な心がけはできない。  怪物は、なにかに傷つき、部屋に引きこもるようになったのだろう。  僕は、怪物を傷つけた相手に対して復讐心など微塵も抱きはしない。  僕は、怪物が「なおちゃん」だった頃から大嫌いだ。  もっとも、僕が好きだと思う人は、この家に一人もいない。  怪物が死ねばスッキリするが、なんなら両親もまとめて消えてほしい。  ただ、小学六年生の僕にひとりで生きていける生活力などあるはずもなく、現実的予測からしても、両親には怪物の世話を続けてもらわねばならない。  最後まで。  最期まで。  ……両親と怪物、先に尽きるのはどちらだろう?  父は、怪物どころか、この家そのものに関心がない。  父の声を久しく耳にしていなかった。  僕はもう変声期を迎えているが、父はきっと知る由もない。  長男が引きこもりになってからも、毎朝八時前に出社し、二十一時頃に帰宅している。家族の問題になんら影響されない立派な社畜だ。  母は、最近よくわからない。  かつては、持ちうる愛情すべてを「なおちゃん」に注ぎこんでいたが、愛息が怪物と化したいまでは見事に腰が引けている。  引きこもりが一年近く経過するので、思い詰めているのか、あるいは疲労困憊で放置したいのか。  好きにすればいい。  どのみち、僕に関心を払うことはないのだから。
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