6人が本棚に入れています
本棚に追加
ずーっとこうして家にいるのと、どっちがしんどいのかなあ。
あてもない思考が疲労困憊の心身からふわりと浮かび上がる。家の中で、返る言葉のない孤独が静かに僕を蝕んでいく。
二階に怪物がいるが、この時間は降りてくることはない。居間のソファに寝転び、静かに瞳を閉じる。
ミシリ。
鈍くもしっかりと刻まれた音に、僕は戦慄した。
ミシ……ミシ……。
誰かが――怪物が――階段を、降りている。
眉間の力を抜いて、狸寝入りを続ける。どくどくと打ちつける鼓動が外まで聞こえるんじゃないかと気が気でない。動いてはならないと全身に指令を出し、呼吸まで忘れそうだった。
静まり返った居間に、言いようのない圧迫感が広がっていく。
背後から伝わる気配から、怪物が開けっ放しの居間の入口に立っているのだとわかった。
僕と怪物を隔てているのは、ソファの奥行分だけだ。
すえたような臭いが鼻をつき、思わずむせかける。毎日、入浴してるはずなのに……怪物が放つ臭気は、ヤツが腹の中でたぎらせる子供じみた怒りのせいなのかもしれない。
早く消えろ。はやくきえろ。ハヤクキエロ。
心で何度も唱えているうちに、じっとりと汗が滲んでくる。
「かわいそうになぁ。十二歳で両親を亡くすなんて哀れなもんだ。でもなあ、ぜんぶ、アイツらが悪いんだ。俺がこんな風になったのも、ぜーんぶ、アイツらのせい。……いちばん哀れなのは、やっぱり俺だな。お前は楽でいいよ。なーんにも期待されてないんだから」
ねっちりとねばつく声は、さほど大きくもないのに、一語一語がしっかりと耳に届いた。
久々に聞いたはずの怪物の声は、僕の記憶に埋もれる数少ない「兄との思い出」とピタリと合致した。
「ムノウ」
最後に吐き捨てられた怪物の一言は、存分に笑みを含んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!