闇宿る

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 闇夜の道を一匹の土竜(もぐら)が必死に進んでいた。  進んで、とは、表現ばかりである。実際には亀にも笑われそうな速度で、じたばたと手足を漕いでいた。その無様な姿は、見る者を苛立たせるに十分であった。  本来、彼が生きる場所は、人間がこしらえた田畑の一角である。人里離れた森では闖入者そのものだ。  果てなく続きそうな道中、夜に息づく森の住人たちは、土竜の冒険をせせら笑った。(ふくろう)は冷やかしの声を上げ、野鼠(のねずみ)たちは嗤いながら土竜の前を何度も横切り、(けやき)の大木は軽蔑の眼差しで見下ろしていた。  だが、外野の声など、土竜の耳に届きはしない。一心不乱に手を、足を、動かす彼の目的はただ一つである。  森の奥深く――人跡未踏の地に住まう、「神」に会うためだ。  硬い道が、土竜の体に大きな負荷を与える。  柔らかな土の中であれば、流魚のごとく前進できる彼も、ならされた道の上では成す術もない。  唯一の救いは、闇を恐れぬ体質だった。  地中で暮らす土竜の双眸は、ほんのお飾りでしかない。生き物たちの気配が消えた夜の森を怯えずに済むのは幸運である。  鬱蒼と常緑樹が生い茂る森の深奥は、一筋の光も通さない。昼間は太陽の下に黒暗暗と不気味な輪郭を浮かび上がらせ、夜はより一層と闇を深めた様は、さながら地獄への入口である。  人はもちろん、鳥獣の類も寄りつかぬ常闇の森は、今宵もひっそりと夜に同化していた。
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