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「一週間ほど前のことです。夜なのに、人間たちが騒いでいるのを不思議に思い、ついに――ついに、私は、地上へと頭を出したのです」
真夜中にも関わらず、地上は仄かな明かるさに包まれていた。柔らかな光は白く澄み渡り、兄が語った陽光とは異なると肌で感じた。万物の営みを鎮服させる静かな輝きに照らされ、自分自身も発光しているような心地を覚えて、うっとりと瞳を閉じた。
あるかなしかの瞳の奥にも白い光は染み渡り、このまま光と同化してしまいたいと、一縷の恐怖も抱かずに切望した。
夜空には、磨き上げたように輝く満月が一つ、ぽかりと浮かんでいた。
話し終えた土竜は、初めて浴びた月光の感動を噛みしめて口を閉ざした。月の虜――そんな言葉がふさわしい、まさに骨抜き状態である。
そのため、頭上で耳を傾けていた晦冥命の変化にまったく気づけなかった。
少年神の瞳は静謐な黒色から、紅蓮の炎を宿してベテルギウスのような赤色で揺らめいた。暗黒の邪神にふさわしい、憤怒の表情である。
「あなた様ならば、私の思いが伝わると信じて参りました。闇に生きるあなたにならば。地中で産声を上げ、文字通り土に還る最期の時までも、光を拝むことなど許されぬ私の気持ちが――」
怒りをたぎらせていた晦冥命の瞳は、徐々に元の黒色へと戻りつつあった。息を潜めて闇をさまよい、誰からも見向きもされない存在――地に頭を垂れる土竜に、自分自身を重ね見ていた。
「闇に救いをもとめるものには、永遠の安らぎを捧げよう。……土竜よ、覚悟はできているな?」
はい!!――土竜の声は、歓喜で弾んでいた。誰にも顧みられることのない、この命――惜しくなど、ない。
神さま。
神さま、お願いです。
私を、あの光の元へ――。
願いを唱えた瞬間、真っ白な閃光が闇夜を切り裂いた。森中を震撼させる轟音が響き渡り、黒い炎が空を覆いつくすほどの勢いで立ち昇った。
ようやくの静けさを取り戻す頃には、世界は完成していた。
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