処刑は午前九時に執行します

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   僕の家には怪物が住んでいる。  怪物は、僕の家を、僕を、絶対的な力で支配し続けている。  僕が生まれてから今日まで、ずっと。  十二年間、ずっと。  朝。  父も、母も、僕も、それぞれの規則に則り、各自が適当な時刻に起床する。  身支度を整えて、朝食をとり、憂鬱な気持ちをなだめすかしながら、「普通」の生活を維持するために、家を出る。  父は会社に、僕は小学校に、母はもう少し遅くなってからパートに向かう。  怪物は、未だ夢の中だろう。  昼。  たかが昼休みに、同級生たちが、こうも弾けんばかりの喜びを表すのが不思議でならない。どいつもこいつも、運動場で狂ったように歓声を上げては走り回っている。  彼等が抑圧されていることなどあるのだろうか?  傍若無人に人を嘲り、知性の欠片もない悪口で、ニセモノの強さをひけらかす。猿以下だ。  猿の群れに居場所を奪われた僕は、薄暗い廊下を歩き続けている。  ぐるぐるぐるぐる。  立ち止まっても、見つからない。  ぐるぐるぐるぐる。  僕の居場所はどこにある?  学校での僕はさながら回遊魚だ。  朝から誰とも喋っていないことに気がつき、ますます魚に近づく心地を覚えた。そのうち発声機能が衰退しそうだが、そんなことはなく、変声期途中の枯れた声はきちんと喉を震わせる。 「全員まとめて死んじまえ」  いまごろ、怪物は遅い朝食の時間だろう。  夜。  僕は、部屋で耳を澄ます。 「なおちゃん」  母が、怪物の部屋をノックしている。コンコンと遠慮がちに、でも、しつこく。  バンッと炸裂した音は、怪物がなにかを投げつけたものだ。  怪物は、なにかを発したり欲することはできても、受け入れることはしない。  いいかげん、わかれよ、ばか。  隣の部屋で布団に潜る僕は、怪物よりも母に腹を立てる。
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