6人が本棚に入れています
本棚に追加
僕の家には怪物が住んでいる。
怪物は、僕の家を、僕を、絶対的な力で支配し続けている。
僕が生まれてから今日まで、ずっと。
十二年間、ずっと。
朝。
父も、母も、僕も、それぞれの規則に則り、各自が適当な時刻に起床する。
身支度を整えて、朝食をとり、憂鬱な気持ちをなだめすかしながら、「普通」の生活を維持するために、家を出る。
父は会社に、僕は小学校に、母はもう少し遅くなってからパートに向かう。
怪物は、未だ夢の中だろう。
昼。
たかが昼休みに、同級生たちが、こうも弾けんばかりの喜びを表すのが不思議でならない。どいつもこいつも、運動場で狂ったように歓声を上げては走り回っている。
彼等が抑圧されていることなどあるのだろうか?
傍若無人に人を嘲り、知性の欠片もない悪口で、ニセモノの強さをひけらかす。猿以下だ。
猿の群れに居場所を奪われた僕は、薄暗い廊下を歩き続けている。
ぐるぐるぐるぐる。
立ち止まっても、見つからない。
ぐるぐるぐるぐる。
僕の居場所はどこにある?
学校での僕はさながら回遊魚だ。
朝から誰とも喋っていないことに気がつき、ますます魚に近づく心地を覚えた。そのうち発声機能が衰退しそうだが、そんなことはなく、変声期途中の枯れた声はきちんと喉を震わせる。
「全員まとめて死んじまえ」
いまごろ、怪物は遅い朝食の時間だろう。
夜。
僕は、部屋で耳を澄ます。
「なおちゃん」
母が、怪物の部屋をノックしている。コンコンと遠慮がちに、でも、しつこく。
バンッと炸裂した音は、怪物がなにかを投げつけたものだ。
怪物は、なにかを発したり欲することはできても、受け入れることはしない。
いいかげん、わかれよ、ばか。
隣の部屋で布団に潜る僕は、怪物よりも母に腹を立てる。
最初のコメントを投稿しよう!