神様だって、お願いしたい

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「神様! お願いします! どうか、葵ちゃんと付き合えますように!」 『また来た。よくあるのよね〜このテのお願い事。こんな小さな神社でそんなこと願って、叶うとでも思ってるのかしら。大体そんなこと私にお願いしないで自分でなんとかしなさいよね。神頼みなんてしてるから上手くいかないのよ。もっと頭をよくするとか見た目をよくするとか、あるでしょうが』  拝殿の奥で脚を組み、蔑むように参拝者を睨む愛加(あいか)の目が、賽銭箱の向こうの階段下で気怠そうに腕組みする男の存在を捉えた。 「幸矢! お前も頼んで!」 「は? なんでだよ……」 「いいから。お前の幸運、俺にちょっと回せや」 「フザケンナ……」  幸矢、と呼ばれた男は悪態をつきながらも階段を登り、賽銭箱の前に進み出る。神様の前に立とうというのに、両手はポケットに突っ込まれたままだ。 『だから、そんな態度でお願いって……』  ドクン——。  言いかけた言葉の途中で、愛加は胸を押さえた。  なにこれ、きゅううって——。  ポケットから出された幸矢の手から、チャリンと小銭が賽銭箱の中へ落ちていく。幸矢の顔が、初めて愛加の目に映った。    手からこぼれ落ちる小銭を見つめる幸矢の瞳が宝石のように輝いて見え、愛加は吸い寄せられるようにその目を見つめる。 「浩介の告白が上手くいきますよーにー」  パチンと合わせた手の向こうから、やる気なさげな神頼みが聞こえてきた。 「お前、せっかくならもうちょい真剣に頼んでくれよ。俺の青春かかってんのに」 「なんでお前の青春のために俺が真剣にならなきゃだよ。マジフザケンナ」  くるりと拝殿に背を向け、幸矢は階段を降りていく。両手は再びポケットの中。  胸を押さえたまま、愛加は幸矢の後ろ姿を目で追った。 『ねえ、パパ。ううん、神様……私も、お願いしていいのかな……』  end.
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