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何だかイライラの方向が変わっている。そうだ。相沢への恨みのはずだった。この男が横にいるせいで、ますます若く見られているのだ。連れが若いんだからあいつも若いだろうと見られ、前にも増して舐められている。
「ん?」
気づくと、横にいたはずのその相沢がいない。
「まさか」
逃げたのかと思ったが、すぐに発見できた。雑踏の先、クレープ屋の前だった。相沢は女子高生に紛れながら熱心にメニューを見ている。
「なにやってんだ」
今は被疑者ではないというだけで、いつでも逮捕可能な男がのんびりクレープ。しかし、相沢に非常に似合う食べ物であることは間違いない。食べている姿を想像して、前川は吹き出した。
「失礼な人ですね」
よく通る涼しげな声が聴こえた。相沢だ。いつの間に戻ってきたのか、前川の顔をじっと睨め付けていた。何を想像していたのか、この若者はお見通しなのだろう。手にはクレープ――とはいかなかった。手ぶらである。
「クレープは?」
「食べませんよ。甘いものは苦手なんです」
「じゃあ――」
質問しようとしたところで、相沢がじっと前川の目を見つめてきた。
「な……何だ?」
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