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紗椰はうなだれる俺の背中をポンポンと叩く。
「大輔は頑張った。だから今日はラーメン食べに行こう」
「お前な……、そんな気分じゃないんだよ……」
「失恋したって、お腹は空くんだ。なら好きなものを食べればいい。今日は私のおごりだよ」
紗椰に背中を押されて、俺は足を踏み出す。夕日は無情にも沈んだ。
夜の帳が降り始める。
俺と紗椰はいつもの大手チェーンのラーメン屋に行く。
「今日は贅沢にいこう。チャーシューメンでも許す」
「お前な……」
紗椰は、俺が頼む前に店員にチャーシューメンを二つ頼んでしまう。それを待つ間、紗椰は宙を見つめるように語りだす。
「私は大輔が失恋して、正直良かったと思う。高校生が子持ちの方と付き合うのは並大抵のことじゃない。きっと三沢さんは、大輔の将来のことを考えて断ってくれたんだ。一生懸命になった大輔を三沢さんが嫌っている訳はないんだからな」
俺は、うつむいていたが、知らぬ間に俺の目から涙がこぼれ、カウンターにポタポタと落ちる。
「紗椰、ありがとう……」
「こちらこそ。大輔はもう少し周りを見ろよ。大輔のことを大切に思っているやつはいるんだからな」
「うん……」
俺らの目の前にチャーシューメンが運ばれてくる。
「俺の失恋に乾杯だな」
「うるさい。延びる前に食え」
俺が、俺を大切に思っている人に気付くのはもう少し先の話だ。
その時に三沢さんが言っていた周りに気付く。それはまだ先の話だ。
今はただ、紗椰と二人で食べるチャーシューメンがやたら身に沁みた。
了
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