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俺のシフトは土日の9時から17時までだが、最初のシフトは平日の17時からだった。俺を教育してくれる人のシフトが17時からであり、その時間帯は店長もシフトに入っているために最初だけは仕方ないと言われたままに店を訪れた。
「あの、今日からバイトの木下というのですが……」
店の扉をくぐり、レジを見ると面接をしてくれた店長の姿は見当たらず、女性店員が一人でレジに立っていた。
「あら。ちょっと待ってね。店長を呼んでくるから」
女性店員は、バックヤードに向かい、店長を呼び出しに行く。その女性店員の後ろ姿を見ながら俺は不覚にも綺麗な人だななどと思ってしまった。
店長が俺の前に現れ、俺を連れて再びバックヤードに向かう。ユニフォームに着替えてタイムカードを押し、胸に名札をつけて、店に向かう。
「はじめまして。私は三沢と言います。よろしくお願いします」
先程の女性店員、三沢さんは、俺に挨拶をしてくれる。
「はじめまして。木下です。よろしくお願いします」
間近で見るとやはり目鼻顔立ちの揃った美人なのだと改めて認識する。
「木下くんの仕事は私が教えるからよろしくね」
にこりと微笑まれると一瞬、心臓が止まりそうになる。
「……お願いします」
最初は挨拶から。
「お客様が入ってきたら、いらっしゃいませは必ず。朝なら、いらっしゃいませおはようございます。昼ならいらっしゃいませこんにちは。夜ならいらっしゃいませこんばんは。それだけでお客様の気持ちは変わるからね。お客様がレジに商品を持ってきたときもいらっしゃいませを忘れずに」
俺はメモを取りながら、三沢さんの話を聞く。その間にお客様が何人か店の扉をくぐる。
「いらっしゃいませこんばんは!」
三沢のよく通る声が店内に響いた。
「いらっしゃいませー……」
俺は三沢に続いたが、その声の低さは自分でもよく分かった。
「なるべく元気よくね。少しずつ声を大きくしていこうね」
三沢さんが、俺に仕事を教えている最中のレジは店長がやっている。テキパキとこなして笑顔も崩さない。三沢さんもしっかり笑顔を作っていた。
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