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コンビニバイトで俺は生まれてはじめての給料をというものを手にした。銀行のATMで僅かではあるが、それはしっかりと振り込まれていた。その最初の使いみちは俺は決めている。
お金を下ろして銀行を出てから、俺はスマホで紗椰に電話を入れる。
「ラーメン食いに行くぞ!」
「あ。給料入ったんだ。私を食事に誘うとはできた幼馴染みだな!」
そんなやり取りがあり、そのまま紗椰と合流して、二人でラーメンを食べに行く。
俺も紗椰も大のラーメン好きで給料が入ったならば、ラーメンを食べに行こうという約束をしていた。
「今日は奮発してやる!チャーシューメンでも許してやろう!」
大手チェーンのラーメン屋だが、俺らには十分。ラーメン一杯の幸せは至福なのだ。
ラーメンを啜りながら、話題は三沢さんのこととなる。
「三沢さん、いつもは夕勤だけなんだけど、たまに土日の昼勤もいてくれるから楽しいんだよねぇ。お子さんの話がまた可愛いんだよー!」
紗椰もラーメンを啜りながら、うんうんと頷く。
「少年、三沢さんに恋をしたか?」
俺の手がピタリと止まる。
「恋か……。三沢さんになら恋してもおかしくないかもな……」
「高嶺の花だぞ。少年」
紗椰は、ラーメンを啜る手を止めない。器用なことだ。だが、確かに三沢さんは高嶺の花だ。お客様からも好かれている。言われなければ子持ちだって信じることもできない。離婚した旦那さんは、本当に勿体ないことをしたなと俺はラーメンを啜りながら考えていた。
今では俺のシフトは土日だけ。三沢さんに会えるのは、三沢さんが俺と一緒のシフトに入るか、または17時の引き継ぎのときだけ。それでも三沢さんは、俺に沢山のことを教えてくれる。
俺が退勤間際にはじめて宅配の受付をしたとき、三沢さんはすでにレジに立っていて、俺とは違うレジで並んだお客様を捌いていた。俺は、宅配の受付は確かに三沢さんに教えてもらったがかなり手間取り、お客様を怒らせてしまった。
「おい!時間指定くらい聞けよ!」
「申し訳ありません……」
「おい!控えを寄越せ!」
「申し訳ありません……」
何とか終わらせて、三沢さんも並んだお客様を捌ききり、俺に声をかける。
「木下くん、よく頑張ったね。ちゃんとできてるよ」
「でも、俺、お客様、怒らせてしまった……」
「それは木下くんが悪いんじゃないよ。私が木下くんがちゃんと理解できているのを確認しなかった私の教え方が悪かったの。だから気にしないでね」
三沢さんは、俺の背中をポンと叩いた。その時だったのだろう。俺が恋に落ちたのは。
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