17時のあなたに伝えたい

6/9

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「三沢さんが好きすぎる!」 「また、その話か。少年」  高校の話に紗椰はパックのグレープフルーツジュースをストローで啜りながら俺を睨む。 「バツイチ子持ち、高嶺の花の三沢さんに挑めるだけのものを君は持っているのか。少年」  すでに年も明け、俺の残るコンビニバイト生活も終わりが近くなっている。 「分かってるよ!分かってるけど!どうにかなんないかなぁ……。あと、少年ってやめろ」  紗椰は俺の顔をマジマジと見つめる。 「三沢さんに恋する大輔は、間違いなく少年の顔だぞ。私は嫌いじゃないけどね」 「やめろよ……」 「でも本当にどうするの?そんな状態じゃ受験勉強に身が入らないでしょ?」  紗椰の目には不安が見える。 「どうしよう……」  俺が頭を抱えて、机に伏せるとその脳天に紗椰の手刀が軽く乗せられる。 「後悔だけはするなよ。私は大輔の側で見ててやるからな」  俺からはため息しか出ない。  それからまた日は過ぎる。  三沢さんは相変わらず誰にでも優しい。俺のあとに入った新人たちも三沢さんの教育を受けて、店に立つ。その誰に聞いても三沢さんの印象は悪くない。若いのに、店長が三沢さんに新人教育を全て任せるのは納得がいく。  三沢さんにとって俺はただの高校生なんだろうか。ただのバイトなんだろうか。考えれば考えるほど深みにハマる。  紗椰も三沢さんによく懐き、用もないのに三沢さんの様子を伺いに来る。大体が俺の退勤の時間のため、その後は一緒にラーメンを食べに行くことが多い。 「今日も一緒にラーメンデート?」  三沢さんは、俺らを見てケラケラと笑う。 「違います!」  俺は強く否定するが、紗椰は違う。 「大輔が幼馴染みの私のための感謝をラーメンで表してくれるのです。必要なことです」  三沢さんは、やはりケラケラと笑う。紗椰と一緒にいると三沢さんが勘違いするのではないかと、俺は最初、危惧したがそんなことはなかった。  正直、そんなことより三沢さんに俺の気持ちを気付いて欲しかった。  三沢さんにその気配は一切なかった。  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加