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「三沢さんが好きすぎる!」
「また、その話か。少年」
高校の話に紗椰はパックのグレープフルーツジュースをストローで啜りながら俺を睨む。
「バツイチ子持ち、高嶺の花の三沢さんに挑めるだけのものを君は持っているのか。少年」
すでに年も明け、俺の残るコンビニバイト生活も終わりが近くなっている。
「分かってるよ!分かってるけど!どうにかなんないかなぁ……。あと、少年ってやめろ」
紗椰は俺の顔をマジマジと見つめる。
「三沢さんに恋する大輔は、間違いなく少年の顔だぞ。私は嫌いじゃないけどね」
「やめろよ……」
「でも本当にどうするの?そんな状態じゃ受験勉強に身が入らないでしょ?」
紗椰の目には不安が見える。
「どうしよう……」
俺が頭を抱えて、机に伏せるとその脳天に紗椰の手刀が軽く乗せられる。
「後悔だけはするなよ。私は大輔の側で見ててやるからな」
俺からはため息しか出ない。
それからまた日は過ぎる。
三沢さんは相変わらず誰にでも優しい。俺のあとに入った新人たちも三沢さんの教育を受けて、店に立つ。その誰に聞いても三沢さんの印象は悪くない。若いのに、店長が三沢さんに新人教育を全て任せるのは納得がいく。
三沢さんにとって俺はただの高校生なんだろうか。ただのバイトなんだろうか。考えれば考えるほど深みにハマる。
紗椰も三沢さんによく懐き、用もないのに三沢さんの様子を伺いに来る。大体が俺の退勤の時間のため、その後は一緒にラーメンを食べに行くことが多い。
「今日も一緒にラーメンデート?」
三沢さんは、俺らを見てケラケラと笑う。
「違います!」
俺は強く否定するが、紗椰は違う。
「大輔が幼馴染みの私のための感謝をラーメンで表してくれるのです。必要なことです」
三沢さんは、やはりケラケラと笑う。紗椰と一緒にいると三沢さんが勘違いするのではないかと、俺は最初、危惧したがそんなことはなかった。
正直、そんなことより三沢さんに俺の気持ちを気付いて欲しかった。
三沢さんにその気配は一切なかった。
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