ever after…

1/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
懐かしいという感情を本当の意味で感じたのは初めてかもしれない。川沿いの古びたアパート。 この道幅じゃ、たしかに建て替えは無理か…大幅にリノベーションしたら…と自然に思考が進んでしまう自分に苦笑交じりのため息をつく。 地元の本命を落ちて、縁もゆかりもないこの北の街に進学した僕は、夏でも涼しいこの街で季節を問わずよく風邪をひいた。気候にも街にもなかなか馴染めず、住まいも落ち着かず、引っ越したり、先輩の家に転がり込んだりしながら、最初の数年を過ごした。建築学生なんて、研究室に入り浸りで、徹夜も当たり前で、正直、自宅なんかいらないんじゃ?と思ったりもしたが、流石にそうも行かず、3年の秋、このアパートに落ち着いた。川を挟んで大学と斜向いという立地もあって、ほぼウチの大学の寮と化していた。学年も男女も関係なくなんだかんだと出入りしていて、今で言うならシェアハウスのような…いや、そんな小洒落たものではなかったか。 一番バカバカしくて、一番たのしい日々だったと思う。あの頃はあの頃でその瞬間瞬間が必死で、時には地球が終わるような悲壮感を感じたこともあったけど、振り返ればそれすらも輝いていて、今の僕には眩しい。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!