ゆうくん

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ゆうくん

今日はクリスマスとか言う日だからこの店に来る人はいつもより多かった。 みんなボクを見ては、 「かわいい!」 って手に取ってくれるけど、結局はボクを棚に戻す。 ボクと何から何まで同じ子はたくさんいる。 ボクはその中の一つに過ぎなかった。 姿同じでも大抵ボクと違う子が選ばれてる。 そこへ一人の中年の男が入ってきた。 ベージュ色のコートを着ている。 ベルがちりんちりんと鳴った。 「いらっしゃいませー」 なんのために言ってるかもわからなかったし、意味も知らなかったけど、人が入ってくる時に言うこの言葉はもう覚えてしまっていた。 その男は何かを探している様だ。 左右へとキョロキョロして、やがてボクの方に目が止まった。 彼は今までの人と同じようにボクを持ち上げる。 ただ今までの人とは違って、とても真剣にボクを見つめていた。 何を悩んでいるのか予想しょうとした。 が、彼はなんとボクを持ってそのままレジに向かった。 顔には出せなかったけど、心の中ではとても驚いていた。 ボクは数ある同じようなベアの中から選ばられたのだ。 今までにない優越感で溢れている。 ボクは白い袋の中に入れられた。 中の居心地は、とても良くないと言うに留めておこう。 人いっぱいの所に身を潰されては、袋の中で左右上下へと飛ばされていた。 一体どこに連れられるかは、真っ白な空間ではとても見えて来なかった。 どのくらいか経った頃に突然、 「パパ!」 と誰かを呼ぶ小さな男の子の声が響く。 そして走る音が聞こえたかと思えばまた袋が揺れた。 女性の声が近く聞こえる。 「あなた遅いわよ、言ってたより遅かったじゃない」 どうやらボクを買った男はその女性と会う約束の時間に遅れていた。 「すまない、ほら、ゆう、君へのプレゼントだよ」 さっきの声の男の子は「ゆう」と呼ぶのか。 この男の人はお父さんで家族だったんだ。 ボクはゆうくんへのプレゼントになるのか。 だからあの時なにかを探してたんだ。 その男の子は袋を受け取った。 「取り出すのはあとにして、ほら帰るよ」 ボクを袋から取り出したかったみたい。 ボクも初めての持ち主をひと目見たかった。
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