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二人:コンプリメンタリーカラー 2
ある朝のこと。お茶部屋のホームスペースから目覚めると、学生たちが集まっていた。
樋尾、河村、沢、白坂の四人だ。彼らは揃ってホワイトボードを見つめている。
そしてそのホワイトボードには、とても黒のマジック一本で描いたとは思えないほどの素晴らしい景色――佇む踏切に満開の桜並木から散花降り注ぐワンシーンが再現されていた。
皆が口々に感想を漏らす。
「すっげぇ! アーティスティティックですね!」と沢。
「いやぁ、春だねぇ。ティが一個多いねぇ」と樋尾。
「夏子先輩ですね。いいなー。今度どこか教えてもらお。就活してて見つけたのかな」と河村。
「綺麗ですけど、左上にある血文字風の『I'LL BE BACK!』が気になります」と白坂。
人間四人も集まれば、着眼点も四通りだ。ちなみに僕は、芸術に関しては門外漢なのでノーコメント。これを残した人物については知っているが、まあ、のちに嫌でも語るだろう。
突然現れた早朝のファンタジックアートに緩んだ空気を、樋尾がパンッと手を叩いて整える。
「さて。これはこれである種の欠席届として……あと、この場にいないのは、橋原さんだね。確か、振替授業だっけ。代わりは河村に頼んだって聞いたけど、あってる?」
「はい。今回だけ彼女と僕の順番を入れ替えました。なので、今日が僕で、次回が彼女です」
今日、皆が朝早くから集まっているのは、週に一度の“輪読会”があるからだ。輪読会は研究室の学生全員で同じ教科書を読み、単元ごとに当番制で解説をしながら進めていく勉強会。当番の人は教科書の内容について事前に理解し、資料を作成。周囲はそれに対して質問や意見を述べていくのだ。目的は、参加者全員が内容についてよく理解すること。教員は参加しないが、これも立派な学生としての単位である。
今回は河村が司会と解説を行うらしい。二年目ゆえか、彼も慣れたご様子だ。白坂はただ黙々と資料や教科書に目を落とし、樋尾はラフな姿勢で軽く頷きながら聞いている。沢はちらちらと僕の方を見ていて注意散漫だ。おい、ちゃんと聞けよ。
そして、かく言う僕も、是非、成長した主人のご高説を賜りたいと思っていた。あまり動き回るのも皆の邪魔になってよくないので、全員の顔が見える定位置を早々に陣取り清聴――もとい省電力モードに切り替え、河村のやや張った声に、静かに耳を傾けた。
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