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老猫はヨロヨロと起き上がり、重い足取りでなんとか地面に着地した。
「一緒に一回店を出ようじゃないか。夜通しおあつらえ向きの死に場所を探して、見つかったらそのまんま心中しよう。見つからなかったらこの店に戻って、モーニングセットで人生仕切り直しってのでどうだい?」
猫はいま僕に自殺を止めるよう諭しているのか?
ふと見た先のマスターは漫画のように椅子で寝息を立てている。
「ちょっとナポリタン食べながら考えさせてもらえます?ここのお勘定っていくらですか?どこにも載っていなくって…」
若猫も老猫も嗤いながら言った。
「地獄の沙汰も金次第っていうじゃないか。ここは払わず行こうぜ」
「そういうわけにはいかないじゃないですか!身勝手すぎますよ!!」
また僕は声を荒げてしまった。
反射的に猫たちは全身を総毛立てた。
電源のオンオフのように、彼らの瞳も黒いまん丸から縦の三日月へと形を変える。
その猫目から飛び出た水晶体に映るのは、震える僕の姿だった。
幸か不幸かマスターはメロウなジャズナンバーと共に、深く眠ったままだ。
ちょっと落ち着いて、二本の尻尾をフリフリと挑発的に振りながら、猫たちは半開きのドアに背中二つをねじ込んだ。
隙間から外気と共に夜の気配が店に入ってくる。
「怖くなったのかい?」
「まさか。ずっと今を生きてる方が怖いですよ」
椅子から腰を上げた僕は猫たちの尻尾を追いかけ始めた。
パチン。
パチン。
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