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 父親と私の二人だけの生活になってけっこうな時間が経つけれど、それで私が感じるのは、母親は大変だったんだろうなということだ。何しろ休みがない。例えば洗濯なんて、きっと私一人なら休みの日、週に一度やれば足りるように思うが、父の分もあると最低でも週に2回は洗濯をしなければならない。休みの日に洗濯機を2回回せばいいとも云えるが、それはそれでけっこう辛い。洗濯物を干す場所は限られているからだ。先に洗濯した分が干してすぐに乾くわけでもない。かといって、週の半ばで洗濯をするのも案外厳しい。早朝に洗濯して、干してから仕事に行くのか、帰宅してから夜に洗濯するのかということになる。父はこういう家事には見向きもしないので、支援は頼めない。「大の男が家事なんぞするか。おまえが早く嫁をもらわないから、そんなことで苦労をするんだ」そういうことばが聞こえてくる。だが現実問題としてこの家には今、父と私しかいないのだから家事もどちらかがやるしかないのだ。これが、母が家事をやっているときならまた違っていた。父は取って付けたようなセリフであっても、たまには「母さんにも苦労を掛けてるからな」なんて労っていた。だがその苦労というのも、「おまえが早く独り立ちすれば、母さんは苦労しなくて済むんだ」と、母の苦労の根源は私にあるという論調だった。じゃあ、私は一人で暮らそうか。出来ないこともないだろう。そうしたら父はどうやって日々を過ごすのだろうか。父一人の生活を想像すると、掃除が滞るとかそんな程度ならいいのだが、私の頭には、慣れない炊事の不始末で火に包まれるこの家が思い浮かんでしまう。猫にインスタントラーメンを作れというのは難しいな。それならせめて、猫にはニャアとないてもらいたい。そのほうが助かる。猫がもし人語を話したら、飼っているのが辛いんだろうな。  そんな風に思っていたら、私が知らないうちに父はまた買い物をしていた。 「明日、新しい洗濯機が届くから。古い洗濯機の周りを片付けておけ」  父が得意そうにそう云った。私は仕事から帰って早々、玄関でそれを聞いて、 「これから洗濯機周りのかたづけをするんですか……」 『仕事が終わってないから社に戻って仕事をしてくれ』と云われたくらいの溜息が出た。だが、その新しい洗濯機というのは、 「乾燥機の付いた、すごくいいヤツだ。もうこれで何の苦労もないだろう」  そういうことだった。 「乾燥機ですか。それはいいかもしれないね」 「そうだろう、そうだろう。やっぱり最先端の物を取り入れないとな」  父の衝動買いにいつも閉口するが、たまにはいいこともあるんもだと思った。
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