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 父は以前に町内会の役員をやっていたりしたのと私より遙かに社交的だから、近所の人にも顔が広いし、外で立ち話をすることもよくある。私はだいたいどの人と出会っても会釈をする程度で終わりだ。  近所の公園まで散歩に出たりしても、父は公園で子どもを遊ばせている家族連れも顔見知りで、お母さん方と談笑したり子どもと軽く遊んだりすることもある。それは父の方からそうしているだけで、向こうが好意的に見てくれているかは定かではないが、一応受け入れられているのは間違いない。私だったらお母さん方と年が近い分、かなり近寄りがたい。以前に公園でお母さんやその子どもと話している父にちょっと用事があって私がよっていったら、私をこの父の息子だということを知らないお母さんにあからさまに怪訝な顔をされたことがある。公園なのだから市民は誰でも利用していいはずだが、きっと私が一人で公園に立ち寄ったら、『公園に不審者がいる事案発生』なんて、母さんたちのネットワークで回されてしまうのではと思う。  そういえばこんなこともあった。 「今日は公園でおまえのことを近所のお母さんたちに宣伝しておいてやったぞ。いい(とし)でまだ独身なので、ふがいないヤツだが、いい人がいたら紹介してください、と云って置いた」 「そんなこと云ったんですか……恥ずかしくて外歩けないじゃないですか」 「そんなことはない。自分でも、外で誰かに会ったら「よろしくおねがいします」くらい云ってみろ。結婚しないと男はいつまでも一人前とは云えないぞ」 「はいはい、そうですか」  だからと云って、その半人前の息子に家事一切をやらせておいて、いつも「男は~、男は~」と云っている父は私をなんだと思っているのだろうか。全くやりきれない話だ。だが、結婚して私という息子を持ってこれまでやって来て、近所の人とも交流のある父は、そう考えると私よりもずっと人間としての才能があるのだろう。そう思うとさらに私はやりきれない。
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