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飲み終えた珈琲の缶を、そこらへんの草むらに投げ捨てたのが全ての始まりだった。
パアァ…と光輝く何かが草むらから立ち上がる。真っ白なドレスに身を包んだ髪の長い女性。頭に、金色のティアラを乗せている。
腰の細さもさることながら、胸元の大きく開いたドレスに、露出の高さにも驚かされる。
「貴方が落としたのはこの、金色の空き缶ですか? それともただのゴミの空き缶ですか?」
と言って掲げる手には、右手に金色の空き缶が、左手にただのゴミの空き缶が乗せられていた。
それぞれを、ずいっとこちらに突きだしてくる。
こういうの見たことある。
ここは、とあるキャンプ場からの帰り道で、周りには雑木林しかない。つまりこれはドッキリでも何かの企画でもない。カメラも無い。
正真正銘、この後光の眩しい女性は、『そこらへんの草むらの女神』か何かのようだ。
「え…いや、それは落としたわけではなくて…。」
捨てたんですよ。
落としたわけではなくて。
「貴方がこの空き缶を、雑木林の草むらに無造作に捨てて、地球環境にダメージを与えるような人でないことは、私にはわかっています。」
すみませんでした。
「遠慮することはありません。貴方の落とした空き缶がどちらの空き缶なのか、正直に答えてください。私は『そこらへんの草むらの女神』として、それを貴方の元へと返しましょう。」
ごめんなさいでした。
ここで、それは金の空き缶でしたと答えることは許されない。それは正直者の答えではないからだ。
一方で、落としたのは ゴミの空き缶でした、と答えることも、なんだか出来難いものがある。
ゴミの空き缶を選べば、それは『ゴミをポイ捨てした』と自ら認め、白状することに変わりないからなぁ。
いずれにしろ、女神の重い期待に答えられそうにない。
「どうしたのですか? ゴミを雑木林の草むらに適当に捨てることなど、教養のある文明人にはあるはずが無いと、わかっています。安心して、正直に答えてよいのですよ。」
煽ってくるスタイル。
スタイルいいですね、女神様。
「あ、…あ、あの、言い辛いんですけど、実は…。あの、その、自分で処理するのが、面倒で…。誰も周りにいなかったので、その、気が緩んでいて…。」
「ふふ。貴方は面白い冗談を仰る方なのですね。人がいない時だけ気が緩むことなどありません。ポイ捨てをする人間は、その時の状況などに限らず、ポイ捨てすることが習慣になっているものです。それくらいは、世間知らずの女神の私でも知っていますよ。」
返す言葉がない。
沼があったら沈みたい。
「そ、そ、そうですよね…。はは…。」
「それで、貴方が今『落とした』のは、どちらの空き缶ですか?」
「あの、べつに嘘を答える気はないのですが、それって本当じゃないことを答えるとペナルティとかってありますか? いや、ただの、聞いただけのアレなんですけど…。」
「もちろん、ペナルティはあります。」
はい。詰んだ。
「ですが、嘘を答える必要がないのですから、ペナルティでどんなお仕置きが天から下るかを、事前に知っておく必要はないでしょう。割愛します。」
女神の期待が重い……。
「…あの、その質問にはどうしても答えないといけませんか? なんなら、空き缶は返って来なくてもいいし……」
「空き缶が返って来なくてもいい!? ゲェー!? 本気で仰っているのですか!?」
「だだだだだ駄目でしたか!?」
「これは空き缶です。空き、という部分からわかる通り、中身はありません。ただのゴミです。ゴミはゴミ箱へと捨てるものです。返って来なければ、貴方はこれをゴミ箱に捨てられませんよ? 自分が出したゴミなのに。自分が出したゴミなのに。」
そうですね!!
すみません!!!
「あの、もう、わかりました、ごめんなさい。全部、もう、僕が悪くて。両方ください! 両方とも僕がゴミ箱に捨てにいきますから!」
「そうですか。じゃあ、貴方が出したこのゴミの空き缶と、私が飲み干して捨てるのが面倒だったこの金の空き缶の、両方を捨てて来て下さい。はー。手間が省けた。」
くそババア。覚えてろよ。
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